別の記事で「強いチームより、試合に出られるチームを」と書きました。この記事では、その主張がどんな研究に支えられているのかを、出典を示しながら整理します。研究の多くは海外のもので、年代や環境が日本と同じではない点には注意が必要ですが、複数の国・複数の手法で同じ方向の結果が積み上がっている領域です。
早い時期の「うまい」は、生まれ月にかなり左右される
ヨーロッパ10か国のユース代表やクラブの選手構成を調べた研究では、選抜されたチームほど選手の誕生月が学年の前半に偏っていることが繰り返し確認されています(Helsen ほか, 2005)。同学年でも誕生月が早い子は体格や成熟で有利になりやすく、その差が「才能」と見分けにくいためです。この現象は相対年齢効果と呼ばれ、スポーツ全般で確認されている一方(Musch & Grondin, 2001)、プロや大人のレベルではその偏りが小さくなることも知られています。つまり、早い時期の選抜が拾い上げているものの一部は、才能ではなく単なる成熟の早さだということです。
早期選抜は、将来の活躍をほとんど予測しない
ドイツの育成システムを調べた研究では、育成プログラムに選ばれる選手の入れ替わりが毎年かなり大きく、早い年齢で選抜されたことが後のプロ入りをあまり予測しないことが示されています。のちにトップへ到達した選手には、あとから育成システムに入ってきた選手が多く含まれていました(Güllich, 2014)。ポルトガルの年代別代表を追った研究でも、ユース年代で代表に選ばれた選手のうちシニアでも代表級に残る割合は限られる、という結果が出ています(Barreiros ほか, 2014)。「10歳時点の序列」は、大人になったときの序列とは別物と考えたほうが実態に合います。
プロに近づいた選手は「プレーした時間」が長かった
イングランドのエリートユースを対象にした研究では、16歳でプロ契約に進んだ選手と、途中でリリースされた選手を比べたとき、差がついていたのはコーチ主導の練習量ではなく、6〜12歳のあいだに自分たちで楽しむ形でサッカーをした時間の多さでした(Ford ほか, 2009)。また、発達段階に応じて「決められた練習」よりも「遊びとしてのプレー」を重視すべきだという枠組みは、スポーツ科学では広く参照されています(Côté ほか, 2007)。共通するのは、子ども時代の上達を支えるのは、本人がボールに触れて判断している時間そのものだという見方です。ベンチで過ごす時間は、この意味での経験になりません。
人数が少ないほど、経験の密度は上がる
マンチェスター・ユナイテッドの下部組織で行われた検証では、9歳以下の試合を8対8から4対4にすると、1人あたりのボールタッチ、パス、1対1の場面、ゴールの機会がいずれも大きく増えることが報告されています(Fenoglio, 2003)。ドイツサッカー連盟が最年少年代の試合をミニゲーム形式へ切り替えつつあるのも、ノルウェーが低年齢の全国的な順位付けをやめているのも、この「関与の密度」を最優先する考え方の延長にあります。日本の8人制サッカーも同じ発想です。出場機会の価値は、人数と形式の設計にまで踏み込んで裏付けられています。
続けられるかどうかも、出場に懸かっている
子どもがスポーツをやめる理由を調べた系統的レビューでは、楽しくないこと、自分はうまくないという感覚といった要因が繰り返し挙がっています(Crane & Temple, 2015)。試合に出られない状態は、この両方につながりやすいものです。また、子どもと保護者・コーチに「スポーツの楽しさとは何か」を挙げてもらった研究では、楽しさを決める要素の上位は「一生懸命やること」「前向きなコーチング」などで、「勝つこと」は数十項目あるうちの上位には入りませんでした(Visek ほか, 2015)。心理学の標準的な理論でも、活動を続ける力は「自分はできる」という有能感に支えられるとされます(Ryan & Deci, 2000)。試合に出ることは、うまくなる手段であると同時に、やめずに続けるための条件でもあります。
まとめ:研究が指し示す実践
整理すると、こうなります。早い時期の選抜は成熟の早さを拾いやすく(相対年齢効果)、その選抜は将来をほとんど予測せず(ドイツ・ポルトガルの追跡研究)、上達を支えるのは実際にプレーした時間で(イングランドの比較研究)、続ける力も出場と有能感に懸かっている(ドロップアウト研究)。だからチーム選びで確かめるべきは、チームの強さや看板ではなく、そこでうちの子が毎週ボールに触れて判断し続けられるかどうか、です。
- 早期選抜は成熟の早さを拾いやすく(相対年齢効果)、将来をほとんど予測しない
- 上達を支えるのは本人がプレーした時間。人数が少ないほど経験の密度は上がる
- 続ける力も、出場機会と「自分はできる」という感覚に懸かっている
- 確かめるべきは強さではなく「毎週ボールに触れて判断し続けられるか」
主な出典
- Helsen, W. F., van Winckel, J., & Williams, A. M. (2005). The relative age effect in youth soccer across Europe. Journal of Sports Sciences, 23(6), 629-636.
- Musch, J., & Grondin, S. (2001). Unequal competition as an impediment to personal development: A review of the relative age effect in sport. Developmental Review, 21(2), 147-167.
- Güllich, A. (2014). Selection, de-selection and progression in German football talent promotion. European Journal of Sport Science, 14(6), 530-537.
- Barreiros, A., Côté, J., & Fonseca, A. M. (2014). From early to adult sport success: Analysing athletes' progression in national squads. European Journal of Sport Science, 14(sup1), S178-S182.
- Ford, P. R., Ward, P., Hodges, N. J., & Williams, A. M. (2009). The role of deliberate practice and play in career progression in sport: the early engagement hypothesis. High Ability Studies, 20(1), 65-75.
- Côté, J., Baker, J., & Abernethy, B. (2007). Practice and play in the development of sport expertise. In Handbook of Sport Psychology (3rd ed.). Wiley.
- Fenoglio, R. (2003). The Manchester United 4 v 4 pilot scheme for U9s. Insight: The F.A. Coaches Association Journal.
- Crane, J., & Temple, V. (2015). A systematic review of dropout from organized sport among children and youth. European Physical Education Review, 21(1), 114-131.
- Visek, A. J., et al. (2015). The fun integration theory: Toward sustaining children and adolescents sport participation. Journal of Physical Activity and Health, 12(3), 424-433.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68-78.
